国宝犬山城を抱える犬山市は、北側に木曽川を県境としながら森林地帯を市の東域に広げています。犬山東部丘陵と呼ぶこの豊かな自然帯は市の過半を占め、市街地と程良い距離感を持っています。明治村をはじめ、京都大学霊長類研究所など文教、社会福祉施設の多くが丘陵地に建ち、市街化調整区域内にくくられています。1965年開園の犬山さくら保育園もこの丘陵地の自然と長らく寄り添いながら、乳児専門の園として半世紀を迎えていました。
1982年建築の園舎に1992年増築、そして、今回二度目になる増築計画です。保育室の増室と調理室の拡張が園からの主な要望でしたが既存園舎老朽化のため、新旧一体で内装を刷新するにせよ可能な限り再利用を図ることと、プレハブ仮園舎を建てず工事を進めながら園運営していくのが大きなテーマでした。
新園舎は、拡張の調理室を核とし、ほふくスペースが各保育室を中継して結びます。保育室は、子どもたちを包む‘囲い感’を保ち、ところどころで視線と気配を抜き、特に、保育士の目線が全体へ繋がるように、建具や家具で遮らない施しとしました。テラスを介する保育室の分室配置と既存の高窓を用いた光の取り込みが、横や上からと室内に明るさをもたらします。‘食・寝・遊’と多様な使い勝手を想定し、十分な広さを持つほふくスペースは、子どもたちを培い、異年齢の出会う場にもなるようです。このスペースの天井と床の一部が既存のままにしてあります。
構造では、増築部分は、既存建屋と単純に横並びせず、構造材相互が干渉しないよう、廊下部分の架構を既存側への片持ち構造とし、柱と梁の一部をテラス側へ外在化しています。また、降雪の多いこの地域で、既存園舎のかたちを反復する勾配屋根が、合理的、経済的にもふさわしいものとして考えています。